人工膝関節置換術を受けられる患者さんへ

下記の項目は、人工膝関節置換術の手術を受けられるかた、あるいは人工関節の手術について知っておきたいと考えていらっしゃるかたを対象として作成したものです。

東京警察病院 整形外科
人工関節センター

人工股関節置換術を受けられる患者さまへ

人工膝関節置換術を受けられる患者さまに

人工膝関節置換術とは、膝関節内の痛んだ骨や軟骨を切りとり、代わりに金属やセラミック、プラスチックなどでできた人工膝関節を入れて、膝関節の機能を再建する手術で、膝の痛みで日常生活が制限されたり、やりたいこと(旅行やレクリエーションなど)ができない方の大きな助けとなる優れた手術法です。
しかし、人工膝関節置換術は医者まかせの手術ではなく、成功させるためには患者さん自身の管理や自覚が不可欠です。下記の項目で、ご自身の手術について知ってください、学んでください、理解を深めてください。そして一緒に手術を「成功」させましょう。
(下記項目をクリックしてお読み下さい)

  • 1.人工膝関節置換術の適応

    • 【適応】手術の対象となるのは、

      • 変形性関節症
      • 関節リウマチ
      • 骨壊死
      • 骨折などの外傷

      が原因で膝関節の軟骨や骨の破壊が著明となり、膝の痛みにより日常生活に不自由が出ている方 です。
      手術によって、長距離歩行や階段昇降の獲得、下肢の変形矯正が期待できます。

      歩行時痛が消失すれば旅行やショッピングも可能です。

  • 2.人工膝関節置換術の限界

    • 人工関節の欠点は、人工物(いわば消耗品)であるために、耐久年数が存在することです。20年から30年の耐久性はあると考えられていますが、若い方に行った場合は摩耗がより激しいですので、耐久年数は短くなります。そこで、当院では人工関節を行う基準を、概ね50歳以上としています。特別な理由があり、若年者に行うこともありますし、超高齢(90歳を超える)の方でも全身の状態がよければ手術は可能です。
      正常膝関節・変形性関節症・骨壊死様病変
  • 3.人工膝関節置換術の詳細

    • 人工関節置換術には、全置換術と単顆片側置換術があります。
      全置換術は、膝関節を構成しているほとんど全ての軟骨とその下の骨を削り、金属とポリエチレンに置き換えます。
      単顆片側置換術は、関節の中の傷んでいる部分だけを金属に置き換えます。その適応は、関節の拘縮が軽度で、靭帯損傷がない場合です。
    • 足底板・ヒアルロン酸
      • 麻酔法
        麻酔科管理下での全身麻酔で行います。神経ブロック、鎮痛薬による疼痛のコントロールをしてくれます。内容については手術前に、麻酔医よりさらに詳しい説明があります。
      • 皮膚の切開
        人工膝関節全置換術では膝関節正面に約15cmの創です。単顆人工膝関節置換術では約10cmの創です。
      • 骨切除範囲
        大腿骨の下端部分と、下腿骨の上端です。単顆置換術では内側部分のみの切除です。全置換術では、ほとんどの場合膝蓋骨の一部も切除します。
      • 使用する人工関節について
        人工関節の構成要素は大腿側インプラント(人工関節の部品をインプラントと呼びます)脛骨インプラント、その接合部分にはポリエチレンが入ります。骨に接する金属は主にチタンです。膝蓋骨には金属は置かず、ポリエチレンのみを使用します。人工関節を骨セメントで骨に固定します。
      • 手術時間について
        手術時間そのものは全置換では約2時間、単顆置換では約1.5時間ですが、麻酔や器材の準備などのため病室に帰るまでには、4時間程度かかります。
      • 出血量
        片側手術の場合、術中出血量は100-300ml前後です。術後出血と合わせると約600mlです。全年齢を対象にすると輸血が必要となるのは約20%です。輸血製剤は日赤より取り寄せて準備しています。
        *当院では患者さん自身の安全を考慮したうえで、自己血・日赤血の輸血を拒否(宗教上の理由)される方の手術には応じていません。
      • 術後の経過について
        術後翌日から2日目に離床、可能であればリハビリを開始し、杖と手すりでの階段昇降を練習していただいて、2〜3週後に一本杖で退院です。
      • 人工関節
  • 4.手術の合併症と危険性について

      • 膝関節周囲に起こる可能性のある合併症
        1. 1. 感染
          手術部位に細菌が入り、炎症をおこすことです。発生率は一般に1~2%と言われていますが、当院では厳密な無菌操作と世界最高水準の無菌室で手術を行っており1%以下です。手術後間もない感染の発症は発熱、創部の発赤、疼痛そして血液検査で判断します。抗生剤の点滴の継続・追加で対処します。もし、感染が関節内まで及ぶ場合、手術で内部を洗浄する必要があります。
          手術後数年経ってから感染が発症することもあります。とくに体の他の部分 に感染巣(虫歯、歯槽膿漏、副鼻腔炎、胆のう炎ほか)がある場合には要注意です。術前に感染巣の治療を済ませておく方が望ましいといえます。
          糖尿病の患者さんは要注意です。HbA1Cが7.0以下、普段の血糖値が200mg/dlで手術を受けられるように、内科かかりつけ医によく相談してください。また当院内科へのコンサルトが必要となるもあります。また例えばアトピー性皮膚炎や非常に皮膚の弱い患者さんも非常に注意する必要があります。
        2. 2. 関節の可動域制限、関節拘縮
          全置換術、単顆片側置換術のいずれも術前の関節の動く範囲を獲得するのが目標です。インプラントの形態と機能からは150度の屈曲も可能ですが、現実は本人の術前の可動域や術後のリハビリテーションに大きく影響されます。
          いずれの場合でも、術後拘縮が強まり、術前の可動域に達しない場合もあります。
          自転車は120度以上曲がるようになれば、乗車可能です。
        3. 3. 血管損傷
          非常にまれですが、膝窩(膝後方)の血管を傷つける可能性があります。この合併症が生じた場合、下腿に血流不足の危険が生じますので早急に膝後面を切開し、血管縫合をおこないます。
        4. 4. 神経損傷
          膝手術創の外側下方の知覚障害は手術後に必ずおこります。切開することで細い知覚神経が切断されるためです。膝の機能には関係なく、数年の経過で軽減します。
          運動神経の麻痺は非常に稀な合併症です。起こったとしても一時的で、しだいに回復することがほとんどです。
        5. 5. 人工関節のゆるみ、破損
          手術後20~30年で人工関節が破損したり、骨と金属の間でゆるみが生じたりすることがあります。破損やゆるみが生じてもすぐに痛みが出るわけではありません。しかしゆるみが大きくなりますと、2回目の手術が難しくなり
          す。この兆候を見逃さないためにも年に一度の定期健診は重要です。 骨粗鬆症がある・骨質が悪いと弛みやすいです。
      • 全身状態に関する合併症
        1. 1.深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)
          同じ姿勢を取り続けることで、下肢の血管内に血栓ができ、これがなにかの拍子に移動して肺の血管を塞ぎ、急激な呼吸不全を起こします。2000人に1人の割合で発症すると言われています。重症例では死亡することもあります。脚のむくみも血栓に関係します。肥満、糖尿病、悪性腫瘍、静脈血栓の既往のある方は要注意です。
        2. 2.金属アレルギー
          金属アレルギーのある方で挿入した金属(チタンなど)に対しアレルギーを起こす方がいます。この合併症は非常に稀ですが、いったん起こると金属の入れ替え、及びセメントを使用した固定が必要となります。
          金属アレルギーのある方はあらかじめ担当医に御相談ください。
        3. 3.麻酔に関する合併症については麻酔科医から外来受診時に説明があります。
  • 5.手術後の生活上の注意と可能なスポーツについて

    • 軽いスポーツは可能です。テニス、卓球、ゴルフ、水泳などはOK。ランニングやスカッシュ、岩登りなどハードなものはだめです。
      車の運転・自転車は、術後6-12週で許可されます。
  • 6.費用の概算

    • 概算で240万円(3週間入院)です。3割負担の方であれば、窓口でのご負担は約80万円です。「高額療養費」の返還の手続きを行えば、ご負担はさらに少なくなり、収入に応じて還付されます。
  • 7.手術をお断りする場合

    • 全身状態が極端に悪く、手術前後の管理が十分にできないと判断される時、または当院の規則を守れない方などは、手術をお断りする場合もあります。

      人工膝関節置換術の説明をさせていただきました。最終的に医師や病院を選び、治療法を選択するのは患者さんご自身です。手術承諾書に署名した後でも、辞退することは可能ですので、不明な点がございましたら、遠慮なくお申し出ください。

  • ひざ体操

    • ひざ体操